イラク帰還兵の大統領批判はどこまで有効か?

海兵隊員P.ハケット氏が、オハイオ州の下院補選にて善戦した。共和党の地盤であり、今まで民主党共和党に勝ったことが一度も無い地域で、無名新人のハケット氏が(!)、有力共和党候補に対して52対48(4000票の差)間で肉薄したことが話題になっている。

同区では、前回、ブッシュ氏が64%を獲得して、圧倒的な支持を得ていたにも拘らず、今回の補選では、きわめて痛切な大統領批判と、イラク戦争反対を掲げる候補が支持されたことになる。一体何故、このような変化が保守的な地域においても起こってきているのか興味が湧くところである。



米国では、シーハンさん(イラク戦争犠牲者兵の母)らのイラク戦争反対の草の根運動が、日増しに浸透しており、今回のハケット氏の登場も、こうした反イラク戦争の運動の流れのなかに位置付ける事が出来ると思われる。

しかし、ハケット氏はもともと戦争そのものに反対する”反戦運動”としてではなく、間違った戦争に対して”異議を唱えている”グループに属している。



彼らは、人一倍の愛国心を自負する人々であり、軍隊などに入隊した経歴を誇りとしているところが共通している。強いアメリカ、世界の憲兵としてのアメリカを否定していない点では、現在のブッシュ政権と思想的には同じ立場に立っていると言って差し支えないだろう。

にも拘らず、今回、イラク戦争からの脱却を主張して、これ以上イラクに関わるべきではない、という考え方では、政策的な相違点を有しており、ここ1年余りの米国内での災害対策の不備に対する政府批判と相乗効果を持った形でにわかに脚光を浴びてきた勢力であるといえよう。



果たして、今後彼等イラク戦争反対派が、米国の大衆から過半数の支持を得るまでに勢力を拡大するのかどうか?これは、誰にも判らないが、少なくとも、現時点では、民主党の中に一定の支持基盤を獲得しつつある新グループであることには異議を挟む余地は無い。



現在の共和党の政策に反対する意味では、イラク戦争反対という点で同一のスローガンを持つであろうが、核大国としてのアメリカの体質そのものを問い直すような”反戦運動”としての立場とは、大きな開きを持っており、今後、民主党内で、どのような議論が深められてゆくのか注目してゆきたいと思う。



イラクからの撤退を語る人は、今後も増え続け、何時か米国もイラクから撤退する日が来ることは疑いない。

しかし、その日が先延ばしされ、米軍が滞在することによるリスクの大きさ、マイナス面はあまりにも明らかであろう。米軍が駐留することによる戦費の負担拡大に比例して、イラク人のみならず、世界の世論からの叱責を米国は背負い込まなければならないことを、ようやく自覚し始めたといえるのではないか?それならば、少しでも早く、部隊を撤退して自国内での山済みされた課題にたち返る必要がある・・・こうした考え方の説得力が、戦争継続一点張りのブッシュの言葉より上回っている。



ハケット氏等のイラク帰還兵の中間選挙立候補が、今後どういう軌跡を踏んでゆくのか注目してゆきたいが、もし、彼らのうち一人でも選挙に当選するような形勢になるとすれば、ブッシュ政権イラク戦争継続の政策にとって、大きな打撃となる。現政権にとっても、本気で戦わねばならない苦しい選挙戦になろうとしている。