ある回想録を読んで。

私の担当する利用者さんの、”回想録”を先日読む機会があり、戦中・戦後のどさくさで、言葉には言い尽くせない体験を経験されてきたことを知る機会がありました。
この"回想録"には沢山の個人情報もそのまま載っており、元々肉親の方々や、戦争中の知人に読んで貰うために書かれた文章であり、私が目を通させて頂く事も躊躇したのですが、"読んで頂ければ、嬉しいです"と依頼され、本人の意向を断りきれず文章をお預かりいたしました。現在90歳を超える年齢となられ、1人で暮らしながら、こつこつと昔のことを書き貯められ、それを息子さんがタイピングされたと聞きます。自分の過去の経験と体験を、何時かは書き残しておきたいと云う気持ちは、誰しも一定の年齢になると湧き出てくるものらしいです。Tさんの場合も、やはり、誰が読むのかは分からないが、自分が言い残しておきたいことがあり、文章にして残すことにより誰かに読んでもらえ、共感してもらえるのではないか?と云う思いが読んで見て伝わりました。昭和一桁代の2年間と、帰ってから叉直ぐに2度目の召集令状が来て、家族と涙の別れをされ、入隊される。戦地での兵役を無事終えられて日本に帰ってきてからの家族との亡き別れなど、まるで小説の物語を読んでいるような気分にさせられました。

何といっても、一番感銘を受けたのは、2回目の召集がかかった時の弟さんとの涙の抱擁の場面です。弟さんは生まれてからずっと体が弱く、病弱で育ち、常に兄を頼って生きてこられたのです。
・・・そんな唯一の頼りの兄を、戦争は2回目の召集という形で奪おうとしている。此れに対して、幾ら抵抗してもそれを止めさせられない悔しさと悲しみが、別れの前の抱擁として描かれておりました。飾りが無い文体で、とつとつと書きあげられた体験記を読ませて頂き、いっきに読み進んでしまいました。・・・涙で別れた、この弟さんは、まもなく病死され、(復員してすぐに、弟さんが亡くなられた)日本に帰還されてから、弟さんが亡くなったと云われる”はんば”のきっちん宿に訪れられ、1人涙に暮れられた光景には、どれだけの悲しみを嘗められたのかが切々と伝わるものがありました。戦争により、家族が振り回され、多くの生死を体験しながら必死で生き抜いてきた、当時の人間の声が、この"回想録"の中に沢山含まれていたように思います。<又機会があれば、(Kさんの同意を得て)この”回想録”のことを記事にしてゆきたいと思います。