硫黄島からの手紙(監督:C・イーストウッド)

 

硫黄島からの手紙 (C・イーストウッド)

ジャンル:    人間 2007/01/01 23:26

監督・編集    (C・イーストウッド)





ストーリー 太平洋戦争の末期、硫黄島にて米軍と日本軍により戦われた激戦の実話を元に、米軍の立場からのものと、日本軍の立場からの2本の映画が作成された。

この映画は、「父親たちの星条旗」の次に作られた、日本軍の立場から描かれた硫黄島を戦場とした人間物語です。





出演 :           加瀬亮 伊原剛志 渡辺謙

この映画にいくら出せますか? 1000円〜〜1500円

音楽  ストーリー  映像・演出  俳優    総合評

☆☆☆ ☆☆☆☆   ☆☆☆☆   ☆☆☆☆  ☆☆☆☆  





コメント

クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」を観て、まず一番印象に残ったことは、男くさい映画として描かれていることです。登場人物の中にはもちろん女性も居るのですが、戦闘場面に入ってからは、すべて軍人は男性で占められている。これは当然と言えばそれまでですが、男たちが繰り広げるドラマとして、味気ないものにはなっていない。

それは、一つには戦争と言う非日常的な場面の中で、死に直面したぎりぎりの緊張場面で繰り広げられている物語だからでしょう。



●私が印象に残っている一番の場面は、当時の日本のある街で、憲兵として上官と2人で見回りに出ていた青年が、ある民家の前で立ち止まり、日章旗が掲揚されていないことを発見し、家族を呼び出し詰問する場面です。

中から出てきた女性が、子供たちも顔を出す中で必死に弁明している。「国旗を掲げるつもりでしたが、女子供だけでは掲げられなかったので、手伝っていただければ掲げます」と言い訳をする。若い青年憲兵は母親を手伝って国旗を掲げたが、その家の犬が吠える。

それに怒った上官の憲兵が若い憲兵に命令し、「任務にはむかう犬を処罰しせいばいせよ!」と命令する。家族の目が若い憲兵に注がれ、必死に命乞いをするなか上官は非情にも裏庭にて犬を処分せよと命令する。

・・・やむを得ず、若い憲兵は犬を裏庭に連れてゆき、拳銃を発砲する。・・・しかし、それは上官に判らない様犬を助けるための空砲であった。「犬を黙らせて、家の中に入れておけ」と命令して家を出、其の侭立ち去ろうとしたが・・・「わんわんわん、」犬が小さく吠える声が聞こえてくる。おそらく、黙らせきれずに、恐怖心で犬がまた吠えたと推測される。

それを聞きつけた上官は、民家に駆け上がり、自分の銃でその犬を射殺する。

戻ってきた上官は、今度は若い憲兵退院を殴りつけ、「犬一匹殺せぬ奴が、憲兵としては務まらぬ」と怒鳴りつけ、上官の命令に反抗したかどで、戦場の前線に送られる処分を受ける。・・・こうして、若い憲兵退院は、硫黄島の前線に送られ、帰る可能性がない戦場にて、命を捧げて戦闘に駆出されることとなった。



●この不条理な一青年憲兵隊員の挿話は、もう一人の戦場に借り出されたパン職人の運命と重ねあわされて描かれている。・・・彼も、赤紙を受けて硫黄島に送られてきたのだが、故郷には身重の愛する妻が待っている。妻は、赤紙が渡されてきたとき、「あなたはもう2度と帰ってはこない」と泣いた。しかし、彼は妻とお腹の中の子供にそっと約束した。「俺は、必ず生きて帰ってくる」と。その約束を果たすべく、彼は硫黄島の戦いの中で何とか生き抜いてゆく・・・

最後の場面では、傷ついて多くの傷病者と共に戦場から脱出して行こうとする場面です。

辛くも、彼は生き残って命を永らえることが出来た。・・・しかし、多くの戦場で亡くなって逝った仲間たちや、上官たちの思いを一杯に抱えて、彼は、預かった多くの手紙類を廃棄せずに遺して来たことを思い出している。後に、この手紙類が開封され、遺族たちの元にその文面が届けられることにより、今回の映画の下地が作られることとなる。・・・渡辺謙主役の栗原中将が話題をさらっているんですが、私は、どちらかと言えば、この若い憲兵隊員とパン職人の生き様が一番印象に残りました。



●この映画は、見る人それぞれの立場で味わえる作品です。

さまざまな解釈と見方・評価がなされて良いと思います。どの見解が正しいか?正しくないか?ではなく、戦争と言う究極のころ試合の場面に立たされた人間が果たしてどういう態度を見せ、生き抜いてゆくのか?あるいは死んでゆくのか?を考えさせる映画です。