実紅と春ちゃん

no-mu2008-02-14

実紅は、2歳になったばかりの女の子です。


今度、お母さんが赤ちゃんを出産して弟が生まれました。
生まれたばかりの赤ちゃんの世話の為、今春ちゃんの家に泊まりに来ています。
春ちゃんは、実紅のお母さんのお母さんです。
だから、春ちゃんは実紅にとって御婆ちゃんになるのです。


赤ちゃんは1日何回もオッパイを呑みます。
赤ちゃんは、オッパイが欲しくなると泣きます。
赤ちゃんが泣くとお母さんはすぐ赤ちゃんのところに飛んで行きます。
美味しそうにオッパイを飲んでいる姿を覗いていると
自分もまたオッパイを飲みたくなり
お母さんを独り占めにしている赤ちゃんのことが羨ましくなります。
今までのようにお母さんが実紅だけの世話をすることが出来ないので、
今は春ちゃんが実紅の相手をしてくれます。
公園に遊びに行ったり、買い物に出かけたり、食事の世話をしたり・・・
一日春ちゃんと一緒に過ごすことが多くなりました。


実紅は外で思い切り遊ぶのが大好きです。
昼間は公園で滑り台や砂場で遊びます。大きい子が一緒に来て動き回ると、
同じように真似をして遊びます。


ある晴れた日、春ちゃんと実紅は公園でいっぱい遊んだあと、
自転車で買い物に出かけました。
スーパーマーケットで沢山の買い物をしました。
春ちゃんが買い物をしている間、実紅は美味しそうなお菓子や
キャンディーをポケットに入れて、買い物をしました。
レジで、春ちゃんにこれを買ってと頼みました。
春ちゃんは、「それは買いません」と言いました。
実紅はお菓子が欲しかったので、「うわーん」と大きな声で泣きました。
お店全体に聞こえるように思い切り泣きました。
体を振り絞って「絶対これが欲しい」と声を張り上げました。


・・・しかし、春ちゃんは負けませんでした。
いくら実紅が、大声を出して抗議してもレジを終えて、買い物袋を提げて
どんどん出口の方に歩いて行きます。

とうとう実紅は、置いてきぼりになりました。
駄々をこねる実紅を尻目に、知らないお母さんたちがじろじろ見て
通り過ぎて行きます。・・・でも、誰も実紅のことを相手にしてくれません。

とうとう実紅は一人ぽっちになり、お店に残されました。
実紅の目から大粒の涙がこぼれていました。


そこへ、一人のお兄ちゃんが飛び込んできました。
泣いている実紅をしっかり抱きしめてくれたのです。
びっくりした実紅は、お兄ちゃんの顔を見ました。
ニッコリしてこちらを見ています。
そして、もう1回ぎゅーと実紅を抱きしめました。
あんまり嬉しかったので、実紅はお菓子のことを忘れて
お兄ちゃんの力いっぱいの腕に身をまかせました。


気がつくと、目の前に春ちゃんが立っていました。
二人が兄弟のように抱き合っているのを見て
こっこり微笑んで、こう言いました。
「僕、有難うね。」
そして実紅の手をつなぐとさっと入口の方へ連れて行きました。
実紅はお兄ちゃんのことが気になったので、自転車の後ろに乗って
帰りしなにお店の方を振り返ってみました。
すると、あのお兄ちゃんが実紅を見て手を振っていました。
それを見て、実紅と春ちゃんも大きく手を振って返しました。
「有難う。また会おうね!」
「また、ねぇ」
二人の声が、まるで唄を歌うように響いていました。
実紅は春ちゃんの大きな背中にしっかり抱きついて、
お家に帰って行きました。

おしまい。