4つの善意と一つの笑顔。

今日は珍しく、気持ちの良いささやかな物語を書いてみたいです。

実話にもどづいて書いておりますが、一部私の創作となっております。

・・・担当利用者が長い入院から在宅に戻ってこられました。

内臓の大手術もされたのですが、不思議なほど経過は良好です。
でも、在宅に戻って少し心配なことがあります。
それは、彼がお酒とカラオケが大好きな趣味があるからです。入院以前、毎日のように行きつけのお店に通い、栄養が偏り持病が悪化して入院となってしまった。だから、それを繰り返さないためにも、今度の退院後はアルコールを絶つ医学的必要がありました。しかし、病院のカンファレンスでは、看護師さんや理学療法士からの”甘い褒め言葉”を受けて、本人は自分が病気を抱えていることを忘れてしまい、浮ついた気持ちで自宅での生活を再開したようです。
本当は、退院する前にしっかり彼を「自分の生き方を見つめる」機会を作り、お酒に対する考え方を問い直してもらってから退院の道筋を作りたかった。でも、事態は最悪の方向に流れだしました。・・・というのも、飲み友達が彼をすぐにお店に誘い出し彼もそれが断れない・・・そんな「繋がり」が退院後すぐに再開してしまいました。驚くべきことに、退院したその日から、悪友に誘われてカラオケのお店に行ってしまったのです!

もちろん、彼のケアマネジャーとして、かなり厳しくアルコールを飲まないよう助言をしましたが、私が強く話せば話すほど利用者の反発は強まりお互いの関係が悪化することが目に見えました。
そこで、目くじら立てて健康生活を助言するだけの“支援が”意味をなさないことを知らされ、少し距離を置いて話をしていくことにした。

退院して1週間が経つが、彼は独り暮らしで子供さんもいない、自分で料理もできない。だからヘルパーが週に幾度か生活支援に来ているが困ったことに冷蔵庫が故障している。入院前から冷えなくなっていたらしいがそのままになっていた。これからの彼の在宅生活のことを考えると、水分補給は欠かせない。
どうすれば良いのか?
もし、彼にお金があれば、もちろん新しい冷蔵庫を買ってもらうことになるのだが、残念ながら彼には持ち金がない。今度の年金が振り込まれる日まで、あと数日間殆ど現金を持っていない。
そこで介護に関係している知人に問い合わせ、どこかで冷蔵庫が余っていないか?情報収集を始めた。電気店にも電話をして、安くて冷蔵庫が手に入れることが出来ないのか問い合わせをする。・・・しかし、簡単には良い話は出てこない。
 
諦めかけていた時に、1件のツードアの冷蔵庫があるという情報が入り、取りにさえ来てくれれば、もらえることが判明する。
すぐさま、車で運ぶ段取りをするも、自分には車がない。
お金を出せば、レンタカーなど借りることも可能だが、利用者には出せるお金がないので、車を無料で借りることからボランティアを探さなくてはならない。
何軒かの介護事業所に声掛けし、利用者がサービスで利用している通所サービス事業所から車の使用について承諾がとれた。
事情を話すと、無償で貸していただけることとなったが、人的な支援は難しいとのこと。
そこで有難く車をお借りして、人の段取りはつきそうもないので一人でツードア冷蔵庫の搬送に立ち向かうことにしました!
内心(何と無謀なことを引き受けるのか?と不安がよぎりましたが、それを止めることが出来ず、「何とかなるやろう!」と考えることにしました。)
しかし、一つ問題あり、「はたして一人で冷蔵庫を運び出し、かつ又車に積み込んで利用者宅の団地に運び、エレベーターに乗せて部屋まで無事に搬送が出来るのかどうか?そのためにどんな道具がいるか?
頭の中はぐるぐる解決策を求めて空回りする・・・
そうだ、冷蔵庫を運ぶ台車が必要だ、だから、誰に台車を借りるか?考えなきゃー・・・そう考えてみても、すぐに名案が出てこない。

もし、さらで台車を買えばいくらぐらいするだろう?とも考えたが、費用が発生することと、それを利用者に負担してもらうことが難しいことを思うと購入案は没となる。
そこで閃いた。ケアマネ協会の支部で台車を所有している人が一人いた!
すぐに電話をして事情を話すと、何と「どうぞお使いください用意しますから。とOKの返事がもらえた。
「よっしゃ。」これで大丈夫だ。
段取りが完了し、車を借りて台車も借り、冷蔵庫を引き取りに伺う。
私の腰が持つのか?はたまたぎっくり腰になるのか?それはだれにも分からない。ベストを尽くすのみ。そう腹を決めて、車を運転する。

・・・まず、冷蔵庫を提供してくれるそのご夫婦がまた良い人達で、綺麗にツードア冷蔵庫を拭いてかたづけた状態で待っていてくれた。
お礼を言って台車を使って車まで運ぶ。・・・本当は一人で運べるのか?不安もあったが、案外空の冷蔵庫は一人で抱えることが出来た。玄関を傷つけない様にそろりと運び出すことも出来た。それから冷蔵庫を横にして軽のバンに押し込むことが出来た。

それから今度は、待っている利用者宅に行って、故障している冷蔵庫を移動させるのが一番大変だった。何せ3ドアなのでモーターが重い。ツードアの時の様に一人で抱えようとしたが、持ち上がらない。利用者に手伝ってもらうことも出来ず、横に倒して毛布を敷いて移動しようと試みたが、ベランダまで出すことが出来なかった。この時点で自分はかなりの汗をかいたが、次の方法を考えすぐに新しい提案をして、置き場所を洗面所の空間に古い冷蔵庫を一時的に置くことを提案し了承を受け移動させる。それから、新たに設置する冷蔵庫の場所をきれいに掃除し、そして台車に乗せた冷蔵庫を下して設置が終了する。
電源を入れる。冷蔵庫がちゃんと冷えていることを確認して一安心。

この間約1時間半、冷蔵庫の引き取りと備え付けおよび古い冷蔵庫の取出し置き換えが完了する。
「これで冷たいお茶が飲めますよ。」と声掛けすると、利用者も、「ありがとう」と笑顔を見せてくれる。
・・・この笑顔が久しぶりの良い顔だったので、何だか苦労が報われたような気持ちになった。

長い説明になったが、今日のこの経験は気持ちの良い経験となった。

・冷蔵庫を無償で引き渡していただいたご夫婦の善意がまず一つ。
・次に、冷蔵庫を運ぶための車を貸していただいた、通所サービスのオーナーさんの善意が一つ。
・それから台車を快く貸してくれた支部の協会員の善意がもう一つ。
・それから、最後にケアマネ本人ではあるが、今回の冷蔵庫搬送ボランティアを企画した自分自身の善意が一つ。

他にも小さな思いが連なってあると思うが、こうした4つの善意が繋がって、今回冷蔵庫が故障して困っている高齢者の元へ、中古ではあるがきちんと作動するツードア冷蔵庫を無償で届けることが出来た。

そして、こうした善意の輪を利用者に渡すことにより、利用者の笑顔を取り戻すことが出来た。

介護の仕事を続けていて、こんな”本業とはずれたような仕事”が結構降って湧いてくることがある。
それを全部抱え込むことは出来ないが、少しくらいの対応可能なボランティアは今後も引き受けていきたいと思う。
こういう体験は、ある意味やったものしか分からない、支援者側の精神的カンフル剤になるのです。
それは何かの報酬のためではなく、必要な支援を待っている人に対して必要不可欠な生きるための栄養剤になるのなら、率先して行動を起こしていける人であり続けたいと思う自分自身への栄養剤となるのです。

こんなチャンスを頂いて、今日は馳走さんでした。

きっと今頃は、あの利用者さん、冷蔵庫から冷たいお茶を出して飲んでいるんだろうな?

終わり。