老いる準備



書籍名 :老いる準備           

著者名 :上野千鶴子  

発行年 :(西暦) 2005  

出版者 : 学陽書房  







『色々頑張って仕事や自分の遣りたいことを続けてきて、ふと立ち止まるってことがあるんじゃないの?』そう問いかける、作者自身も、50の坂を超えた団塊の世代である。

一度、ゆっくり人生の下り坂から見た景色を、自分なりに味わって見ると、今まで外せないと信じていたことや、間違い無いと決め付けていたことが案外何でもない偏見であったことに気付くことも多いと思う。



上野さんは、飾らない語り口で、読者にどんどん既成概念を見直すよう呼びかけてくれる。決して研究者の立場から難解な論理を云うのではなく、一市民の立場から介護の問題、家族の問題を説き起こしてゆかれる。或る時は豪快に、古いしきたりや偶像を無視し、柵から解き放たれてゆく道筋を指し示されている。

少し、上野さんの文章を引用して見ましょう。

『向老学の目指すところは、・・・能力が無くとも、誰からも眨められずに生きてゆける社会を作る事だと私は考えている。一般に価値というのは、誰か他人が自分に与える価値をさす。あの人は未だ役にたつ、という意味での価値である。・・・でもそのような社会的価値が無くなったとしても、人間としての尊厳が失われない社会、そのような社会の構築こそが目標では無いだろうか?』

上野さんの言葉には、力強さと共に、此れからの女性が是非身に付けて頂きたい逞しさが潜んでいると思います。

男性社会のネガティブな側面をあまりに批判されると、いじけてしまいそうな自分を認めるものですが、それでも、上野さんのような言葉に接すると、すがすがしい気持ちにさせられるのです。

この本には収められていないのですが、天皇制などに対する氏の見解について、教えられる事が多い。昨今、皇室典範改正と女性天皇容認論など、天皇制存続のための議論も盛んですが、マスコミには天皇制そのものへの疑問や否定見解はあまり取り上げられないものです。・・・私としては、こうした分野でも、上野さんが堂々と持論を展開し続けられることを歓迎し、古き仕来りと、制度の中で否定されている”人格”を解放すべきであると考えるのです。・・・どうしても天皇制が必要なら、いっそ、公募制にして国民選挙で決める?というやり方が、民主的な世の中での未来の皇室として、位置づけてみることも良いかもしれません。・・・どちらにしても、神聖犯すべからざる天皇制など、今後の日本にあっては有害、なければ幸いな制度であると思うのです。60年前に死に絶えた天皇制が、こうして叉不可解な属性を付与されようとしている現実に、自分も叉、大きな危惧を懐くものです。