がんばらない

 

書籍名 :がんばらない

カテゴリー :評論・エッセイ    

著者名 : 鎌田実  

発行年 :(西暦) 2000  

出版者 : 集英社  

値段 : 1500-2000円  

投稿日時 : 2006/01/11 23:09 本のサイズ: A5版







作者が、当初青年医師として赴任した病院は、『累積赤字4億円、何時つぶれても可笑しくない病院だった・・・』と書かれている。敢えて、田舎の流行らない病院へ、若い医者を望む声を頼りに周囲の反対を押して赴いた。彼には、最先端の器機を持つ、有名教授が幅を聞かしている大学病院などは、最初から眼じゃなかった。自分と云うものを必要とし、求められている病院こそ、彼がめざす医療の現場であった。

こうした、彼の青年らしい、真直ぐな情熱は、所謂出世主義、成金主義とは無縁であったが、傾きかけた病院を、一つ一つ建てなおしてゆく過程では、並々ならぬ努力が積み重ねられたと思う。この本に束ねられている挿話は、全て鎌田さんの実体験に基づいていると言う。彼は、地域の人との医療を通じての触れ合いを大切にし、信頼を一つ一つ繋ぎ合わせ、地域の中核医療組織として立て直して云った。あたかも、大木が地に根を張って大きくなってゆくように、一つ一つ地域住民との繋がりを築いて、其の仲で医療を通しての人間性の深さを学んでゆく。

鎌田さんには、地域の御年寄りに対する深い愛情が溢れている。それは、医療奉仕を通じて、高齢者から医療援助者が受け取る豊かさと言えるかもしれない。

私は、未だ訪れる機会がありませんが、諏訪中央病院は、彼が赴任してから30年の年月が経とうとしているが、もう、しっかりと地域の大切な医療機関として生まれ変わっているという。当初のつぶれかけの田舎病院が、花と緑で囲まれたお年寄りをはじめとした地域の全ての人が集う中核病院として変身した事、この変化の底辺にある人間の心の結びつきを読み取る事が、この書物を解き明かすポイントなのです。

この本を読むと、誰しもが思うことは、『自分の死に場所は、ここだな』、と考えさせられることです。誰もが1回体験する自分の死と云うものについて、其の死に場所に相応しい場所を準備する事は有益なことだと思う。

勿論、それは、自分の家であるはずだが、癌などの病魔と闘う場合、どうしても専門医の医療援助が必要となる。そうした場合、普通の病棟では、精神的なケアーが充分可能とは云えない。ホスピタルなどの終末医療の現場では、1日1日を、其の人らしい暮らし方が出来るよう、苦しみを緩和し、生きる喜びを精一杯享受できる・・・そうした仕掛けが心を込めて整えられている。

・・・筆者は、こうした終末医療の現場でも、人生の最後になっても自分らしく精一杯生きてゆく人々の姿を見守り続けている。

今、ともすれば利益の獲得と企業化した組織が一人歩きしている冷たい巨大な医療組織の中にあって、地方都市で静かに根付いている地域医療の実態を紹介し、自らを問い直すなかで医療そのものを見直して欲しい・・・と呼びかけているようにおもいます。