ヤンキー母校に生きる   (著者:義家弘介 )

 

書籍名:   ヤンキー母校に生きる  

カテゴリー: 評論・エッセイ    

著者名:   義家弘介  

発行年:  (西暦) 2003  

出版者:   文芸春秋  

値段:    1000-1500円  

投稿日時:  2006/12/03 10:27





感動度   実用度  娯楽度  ファッション度  難易度

☆☆☆☆ ☆☆☆  ☆☆☆  ☆☆      ☆☆☆



感想

この本は、義家さんが、体当たりで取り組んでいった高校生とのやり取りを書き綴ったものです。もちろん実名は伏せられているが、いずれも多くの生徒との体験が下地になっていることが判る。

まず、高校1年に全国から北星余市高校の門を叩いた生徒たちとの出会いがある。数々の問題を起こして家や地域の学校から排出されざるを得なかった経歴の子供たちを、全国の全日制では始めて中退者も受け入れる学校としてスタートした。しかし、簡単に共同生活がうまく運ぶわけが無い。知る人ぞ知るキリスト教主義の学校であっても、校則を犯し、不正を働いたものへの制裁はされる。

事件の中で最も大事件になったのが「大麻事件」です。・・・実に71人が関与した大麻の吸引が明らかになり、学校はその存続をかけて生徒たちの指導処罰を行った。かかわりの無かった他の生徒たちへの生活指導を継続しつつ、学内の精神的動揺を受け止め、解決の方向性を示さなければならない。生徒たち自身による長期の反省と討論も進められ、今後自分たちが何をしなければならないか?を模索した。



ここに繰り広げられているのは、今文部科学省などが言っている学内規律の厳格化と懲罰の厳密化では語れない。病原菌の膿を搾り出せば出すほど、学校に集まる全ての者の痛みは増加する。しかし、徹底的に議論と事件の見直しをする中で、生徒たちは少しずつ自分たちの進むべき道を知るようになる。



義家さんは、あるときは生徒たちと取っ組み合いを行い、涙を流して語り合いながら今何をすべきなのかを語り合おうとする。誰にも負けないその熱意が生徒たちに伝わり、荒んだ子供たちの心にも少しずつ笑顔が見えてくるようになる。



義家さんがこの本で言いたかったことは、教師という職業へのこだわりです。

かって、自分も学校に反発し家からも見放され、1988年この高校の門をくぐっていた。やがて、彼は今度は教える側として母校に帰ってきた。多くの生徒たちを前にして、彼が貫いた生き方は、どんな問題にも逃げない姿勢です。如何に疲れていても生徒が求めることに対しては前向きに取り組み、寝る間も惜しんでクラス新聞を毎日作成した。・・・毎日夜の10時前に帰宅することはなかったと書かれているから、どれほどの勢力が生徒たち一人ひとりに注がれていたのか判るであろう。



この物語、テレビ番組などで紹介され、見た人も多かろう。最近は、義家さんは教育諮問委員会委員になられて、未来の日本の教育の在り方を提言する仕事もされているという。・・・彼のような人が、どんどん積極的に発言して頂き、教育のあり方に対する改革の原動力となるのなら喜ばしいと思う。



教育荒廃と言われてからもうどれだけの年月が経つであろう。

競争社会、格差社会の洗礼を受けて、子供たちはいつも悩んでいる。



問題は、子供たちの悩みと発言を、一体どれだけの大人がしっかり受け止めて遣れているのか?である。ちゃんとコミュニケーションを保っていれば子供たちも好きで捩れてゆく訳が無い。親も、地域も、兄弟も、先生ももっと自信を持って自らの仲間と家族を受け入れる体制が無ければならない。

この本は、自信を無くしている全国の人々に対する励ましの言葉を沢山盛り込んでいる。同じように一人で苦しんでいる者に対する応援歌として、読み続けられてゆくことでしょう。こんな先生に見てもらえて高校生活を続けられる者は、なんと幸せなんだろう?と私も思ったんです。