笑う介護 松本ぷりっつ:岡崎杏里

 マイナス面だけが幅を利かせてくる。介護は一般的に汚れ、臭い、暗い、辛いものだと不安が付きまとう。・・・しかし、実際に自分が介護をめぐる当事者になると、冷静な考えが影を失せて客観的な思考力が影を失せてしまうものです。



こうした経験から、人は介護を嫌うようになる。

出来るだけ、こうした関わりから逃れようとするものである。・・・しかし、逃れようとすればするほど、現実の姿はますます不安を増幅するものとなることが多い。



この本は、ごく普通に暮らしていた作者=岡崎杏里さんが、突然母と父の両方の介護と看病の中に放り込まれることとなる経験を紹介している。



普通ならこの物語は重苦しく、耐えがたい臭いが立ち込めるものとなるが、ところがこの本には、多くの笑いが盛り込まれ、読む者の緊張を和らげる働きをするのです。

・・・だから、表紙にあるように、笑って楽しむ介護生活を紹介している。



おまけに、マンガがそれぞれの挿話にミックスされており、読む者を和ませてくれる。

マンガは松本ぷりっつさんの制作ですが、ある時は愛情を持って、また別の時はストレスをしこたまためている家族の状態を上手く描いています。



作者は述べています。

「そして、辛い日々が永遠に続くなんてことはない。いつかきっと終りがあり、その後にはきっと大きな幸せが待っているだろう。もし、今、悩み苦しんでいる人がいるのならば、その経験こそがいつか自分を助け、大きな幸せにつながると信じよう。」

彼女は、介護には終曲はないとも言っている。どちらかが亡くなり関係が途絶えるまで現実の介護は継続され、死が訪れてからも次に精神的な繋がりが続くものでもある。

「これからも岡崎家は、当分ゴールの見えない“介護マラソン”を走り続けなくてはならない」と語っている岡崎さんは、介護を通して多くのものを学んできたことを知っている。

この情報発信は、誰もが人生の途上で突然降りかかってくる“介護”という魔物について、難しい理屈を述べることよりも、まずは気楽に笑うことから視界が開けてくることを示唆している。



誰だって、病気になり体が麻痺を持つ目に合うと、気持ちが落ち込むことになる。しかし、落ち込んだ気持ちにいくら理屈で安心を誘うとしても、逆に落ち込みを加速化することに繋がりかねない。・・・むしろ緊張を和らげるための笑いがあることで、イラつきや焦りを静める効果があることを指摘している。前述したようにマンガと一緒になって書かれているので、誰が読んでも難しい内容は書かれていない。しかし、岡崎さんが経験した家族の介護という経験が、大きな人生の味わいを深めたことを後になって知ることになる。この本まだ今年9月に出版されたところですが、多くの人に読まれることを期待したい。そして、今後それぞれの人生航路において出会う介護の場面で、”笑う介護”の実践をして頂きたいものです。