じいさんばあさんの愛し方

老人介護 じいさん・ばあさんの愛しかた (新潮文庫)

老人介護 じいさん・ばあさんの愛しかた (新潮文庫)

この本は、介護保険が出来る以前、H10年ごろ出版されたが、昨年再び新潮文庫で再出版されている。
本を書いているのは、介護業界の異端児?三好春樹氏です。
彼を異端児と呼ぶのは、大学教授や大病院の院長などの権威を持たない、肩書を持たない著者であるからです。
勿論彼も理学療法士の資格を持つのですが、現在はそうした専門職に携わってはおらず、日夜全国で求められる聴衆に対して持論の介護論を講演し歩いている。
最近は、テレビに出演したり、本が出版されてかなり有名になった。彼を講演で呼ぶには何十万円かの報酬を用意しないと来てくれない、売れっ子の弁士と認められるようになった。

この本の中で、三好さんの介護に関する考え方が施設での体験談などを紹介しながら展開されている。しかし、少しも難しい理屈は並べられていない。
三好さんは、じいさんばあさんの介護について、従来の医療機関が行っていた大きな過ちを指摘し、まずは”うんこしっこ”を普通の人間らしく可能にする方法を提言している。安易におむつをあて、ベット上で点滴を行いお年寄りを拘束してきたやり方に対して警鐘を鳴らしてきた。
今日、まだお年寄りを拘束し続けている施設や病院はもうないはずだが、10年ほど前まではそこらじゅうの医療機関で公然と身体拘束が取られていた。
今でこそ、殆どの施設病院では、お年寄りを拘束することはないかもしれない。
しかしまだ、例外的と称して、お年寄りを拘束している現場があるのではないか?と危惧される。

この本では、認知症のじいさんばあさんをどうしたら愛せるのか?
この質問に対して答えている。
私が、三好さんを本物のメッセンジャーとして推奨する理由は、彼が自分の先入観や考え方を解体すべきものとしてとらえている生き方があるからです。彼はこう書いている「もちろん、人のことは言えない。私だって老人介護の現場に来た時には、彼女と同じような老人観を描いていたのである。(お年寄りに感謝を求める介護論者)だが、現実の老人に出会った時、私は自分の老人像を守るためにインドに向かうのではなくて、自分の老人像、人間ぞうの報を解体したのである。それは心地よい解体だった。解体され再構築されるたびに人間像は多様になり広くなった。」

三好さんは、現在ブリコラージュを定期発行し、「おむつ外し学会」なる講座に賛同する人々とともに、ジワリジワリと介護の現業に携わる人たちの賛同を増やしつつ独特の介護論を展開している。彼には難しい学者さん達の様な理屈は見られないが、聞く者の心に響く訴えがある。
ぜひ、彼の著作を一読して頂きたいが、この本はとっつきやすい形で構成されている。価格が438円という魅力がある。