人材不足の加速を危ぶむ。

no-mu2008-05-04


今日4日付の新聞で介護福祉士を養成するための専門大学(短大を含む)の定数割れが著しいことが発表されている。大学では4年の専門課程を履修すれば国家試験を免除されて資格が取得できることがメリットで、主に若い人材を育成して福祉業界に排出することが目的とされて、全国各地に設立運営されてきた。国の指定を受けた指定養成課程を掲げた専門短期大学は約150校程度ある。そのなかから以下のような回答を得たという。
”調査は4年制・短期大学計80校を対象とし、うち51校が回答。51校の同課程入学者は2005年春の3273人をピークに3年連続で減少し、今春は05年より30%少ない2266人。42校で定員割れが生じ、25校で定員充足率が50%以下となった。”

続いて以下のような下りが描かれているのも驚きです。
”九州のある大学では定員40人に対し入学者はわずか4人で、近畿の短大も定員50人に入学者は7人。今春の定員充足率が7割の北海道の大学は、来年度の募集中止を検討している。


この入学希望者の減少傾向の要因は何であろうか?
第1に考えられることは、介護の業界に就職することへの不安要素が大きいことです。
給与水準が、普通の大卒給与に比べて3割から4割低い水準にありなおかつ仕事はきつくクレームに対するストレスも高い。
今後待遇が改善される見込みも薄い事から若い世代の介護に対する就業意欲が殺がれていることがあげられる。勿論これにはコムスン問題等の介護企業への社会的な批判が高まっていることもあげられよう。

第2に、介護保険に参入する事業者収入が国からの介護報酬により抑えられて、介護の業界での今後の見通しがつかないことも大きく原因していると思われる。
確かに、介護の仕事は今後高齢化の傾向が加速される日本社会においてなくてはならない不可欠な仕事には違いない。しかし、いくら仕事に就くことが出来てもそれが生涯の仕事として続けていけるのかどうか?が問題であり、低賃金で仕事のストレスが高く休みが取れない・少ない・・・では若者の労働意欲が低下することを止められないと思う。

現在職場での常勤者の定着率が、介護の仕事では極めて低い数値を示していることも良く言われている。1年間で常勤者がすっかり入れ替わってしまうような施設職場があってもだれも驚かない現実がある。(一般的には3割から4割の離職率があると言われている)
これだけ人が入れ替わることにより、介護サービスに生かされる専門的なサービスの質が維持できない問題が日常化されており、利用者のサービス満足度も低下する。
また、訪問介護などに典型的に表れているように、殆どのスタッフは非常勤のスタッフにより仕事がなされており、彼らの資質の教育と介護保険に対する理解力・ケース判断力等はほとんど育てられてはいない。ただ、決められた支援項目を在宅という遮断された居宅内で個人的に提供され、その結果様々なクレーム問題が発生することとなる。登録ヘルパーが、複数の事業所にまたがって仕事をする場合もあり、利用者にすれば提供される各事業所の特性が見えない。
一方派遣される登録ヘルパーには利用者宅での滞在時間が時間給に加算されるだけで、移動の為の費用(移動時間と移動しゅうだん交通費頭)は一切支払われてはいない。
登録ヘルパーが、例え1日8時間の仕事をこなしたとしても、実際に受け取る時間給はそこから移動の為の時間が引かれるため6時間から7時間分です。当然、一月当たりで受け取る給与は時間給そのものを低くするわけです。
普通、どんな仕事についても移動の為の時間や移動手段の経費は会社が出すものでしょう。しかし、ヘルパーは全て個人持ちにされている。

こうして、高齢者に対するサービスの在り方が見直しされ検討されることは歓迎する。対策が練られて改善されるのならまだ見込みはある。しかし、実際には国や地方自治体から下されてくる通達や方針は、保険サービスの運用費用の削減とサービス事業所に対する監視・監査の強化が矢継ぎ早に行われている。

現場で働く介護福祉士は、行われている事業の中核となる職種ですが、その職務に対する評価があまりにも低く受け取る報酬が低いため、結局は離職の道を選ぶ人たちが後を絶たない。残された人達がいくら踏ん張ってサービス提供を維持しても、その見返りは少ない。

こうした介護労働者の現状を救済するために、国会でも人材確保のための法案整備が始まっている。
しかし、可決された人材確保のための法案は、具体的な待遇改善が盛り込まれておらず早急な対策としては特効薬になりそうにもない。国会でこうした人材確保の議論がされることは良いのですが、具体案が欠けていることが決定的に弱い。これでは、現場で苦しみ苦闘している介護労働者を救済するものとは成り得ていない。

危惧されるのは、差し迫った高齢化の社会事業を支える人的な土台が崩壊しようとしていることです。
介護を支える人を育成し、介護の質を高めることなしに世界で最も切実な高齢化社会を目前にしている日本社会の未来はないのです。

若い人たちが夢を持って介護の仕事に就き、一方高齢になっても笑顔で社会の一役を担い元気に過ごす…そうした健全な平和社会を築くためには大きな改革をしていかなければならない。
言わば平成の大改革たる高齢化社会の人材育成が蔑ろにされていること、これは無視できない切実な問題です。

ガソリン価格の問題も大切ですが、この介護における人材育成問題は今後重大な結果をもたらす危機的な状況です。