介護の人材確保法案を急げ!

no-mu2008-05-31


先日、国会にて「介護労働者の人材確保に関する特別措置法案」が可決されたと聞く。
これは、他業種と比べて飛びぬけて劣悪な介護の分野での待遇を改善するために考え出された法案です。試算では約900億円を国庫から支出して介護労働者の待遇改善を図るとされており、一人頭約2万円の給与底上げが捻出されるという。・・・具体的には厚生省令で明らかにされるらしいが、全国約100万人とされている介護労働者の地域別平均労働賃金を算出し一定のレベル以上の給与を支払っている「認定事業所」を公表して、その事業所に対して税金から割り増し加算を通常の介護報酬とは別に手渡すというもの。

この特例法は、与野党の賛成によりすでに国会を通過しているが、厚生省令により具体的な運用条項が発令されて初めて具体的に運用される。
果たしていつ、この厚生省令が出されるのか?運用に関して、本気で厚生省が進めているのかどうか?大いに疑問が残る。それは、来年の3年ごとの介護報酬全体の見直しと密接に絡んでおり、この法案だけを優先して成立させる形には未だなっていないところが問題だ。

今国会で、与野党が合意して成立した法案は数少ない。しかしその中にこの人材確保法案が含まれていることに注目すべきであり、これはいかに現在の介護業界における人材難が深刻であるか?を物語っている。昨日のA新聞社説でも取り上げられ、緊急性があることが書かれていたがそこで語られている介護業界での人材の窮状は事実であり、これを放置すればますます深刻な介護の人手不足を招き、介護保険と日本の高齢者介護全体を揺るがす問題となることは目に見えている。

 私は、居宅介護支援と訪問介護を併設している1民間事業所に勤めている「管理者」の職位にあるが、働くスタッフの賃金の安さは顕著に知ることが出来る立場に居ます。
訪問介護の場合はほとんどが非常勤スタッフであり、自分の働ける時間だけ稼働する関係上その仕事だけで生計を立てている人は少ない。夫婦共働きで、一方の給与だけでは生活が苦しいから仕事についておられる。非常勤のスタッフの勤務時間にもよるが平均は10万円以下の人が過半数を占める。もちろん、ヘルパーの賃金だけで子供を育てているスタッフも居られるだろうが、いくら頑張っても15万円以上稼ぐのは並大抵ではない。なぜなら、ヘルパーの移動時間が賃金勘案されず、仮に8時間にわたって介護の仕事についても移動の時間がそのうち1時間以上は発生する。加えて、待ち時間が必ず発生し、サービス提供時間までの待ち時間は賃金が支払われることがない。また、生活支援の賃金は1時間につき850円から1100円程度であり、身体介護の場合は1200円から1500円となる。おそらく1日在宅の訪問介護サービスを走り回っても、8000円から9000円と言うところでしょうか?それも雨の日も風の日も「肉体労働」をするわけです。体調が崩れたら、とてもフル稼働は無理でしょう。おまけに交通費が貰えないので、すべて自前の自転車や交通機関で利用者宅を訪問している。

・・・こうして1カ月働いて、数字の上では20万を稼げるとしても、実際上は、きっちりサービスが密に組まれていることはないのでどうしても穴があきその分待ち時間となる。
だから結局非常勤ヘルパーが20万を稼ぐことは不可能に近い。勿論土曜日日曜日祭日も関係なく仕事がある。(もちろんその加算歩合はつかない)
 では常勤はどうでしょう?確かに常勤者は、事務所に居る時間も見かけは「給与は支払われていることになる」しかし、訪問介護の常勤者の平均賃金は月にして手取り17万から20万です。有給やなけなしの賞与が貰える分非常勤より優遇されているようですが、年収にすると200万から250万というところです。手取りにすれば200万を切る人が沢山居る。
・・・他業種の給与と比較すると、10万円以上の格差が出来ている。これでは、いくら仕事に情熱を持って入社して働いても、努力が見返りを受けるどころか多くの夢が潰されてやむなく退職を選んでいるというのが介護の現場の実態です。
若い人材が介護の仕事を始めても、上がらない給与と仕事のきつさ精神的な疲れからどんどん他業種に流れてしまうことを、現場でいくら押しとどめても根本的な改革が行われない限り引き止めることは出来ない。引き留められないからまた次の人を雇わねばならず研修も1からやり始めることになる。・・・この繰り返しの中でベテラン職員が一人二人と毀れていくわけです。

根性がなく、やる気が無いから辞めていくのではなく、業界自体が人を大切にせず、まるで使い捨てのように劣悪な待遇で人を使い続けようとするから介護の業界に人がいなくなるのです。
介護報酬が低すぎることは誰もが述べているが、では保険料を上げたり自己負担を増やしたりすることについては大きな反対が出る。いろいろ論議がされ厚生省の見直しが3年ごとにされても、最後は報酬体系が切り下げられる・・・というのが事の顛末となる。
こうなると、事業者は人件費の削減を際限なく進める方法を継続する。現場は人の確保のために日々奔走し汗水たらしているのに、介護経営者は利益確保に眼が眩んで介護労働者の待遇改善を二の次にする・・・こうして、現在の介護業界の低賃金体制が出来上がってしまったわけです。

はたして、「介護労働者の人材確保特別措置法案」がいつ始まるのか?見えてこないが、国会で決定したからにはそれを空文化しないためにも早急にこの法案実施に向けて事務作業を早めるべきであると考えます。

900億円、この数字はでかいが、無駄な支出を抑えれば財源をねん出する方法はいくらでもある。ありもしない「戦争」の為に莫大な防衛関係予算を計上しているが、そんなお金を削減すれば出てくるではないか?何の為に平和憲法があるのか?政治家たちは判っていない。また無駄な道路や土木会社が群がる財政支出を整理見直しすればいくらでも国家財政の見直しは可能だと思う。・・・そうした財政改革案を勇気を持って提案する政党・政治家がもっと増えてもらわなければ困る。

私の所属する民間企業は向こう2年間スタッフの昇給がストップされている。今年もまだ、賃上げに関しては組合と交渉が妥結していない。ひょっとして3年続きの賃上げゼロになる可能性すらある。・・・これでは、真面目に働く従業員に夢を削り取ることは出来ても希望を与えることは出来ないのです。新しく介護の仕事に就こうと言う人が現れても、自信を持って自分たちの企業にて招く自信が持てないのです。
とりわけ経営者と組合指導者に言っておきたい。
この国の10年後、20年後を描きながら今現在の話し合いをしているのか?と。
このまま、人材不足の深刻化が続いて日本の介護の質にまで悪影響が沈殿化すれば、自分たちだけではなく社会全体の疲弊化を生み出すことになる。
その病は、他ならぬ自分たちが年老いて高齢化する頃にはもはや一時的な痛みでは解決することが出来ない深刻さをもたらすことになると。
急げ、介護労働者の待遇改善、これこそ国政の最も急務な課題です。