介護事業における“名ばかり管理職”問題。

no-mu2008-10-02

厚労省は、チェーン展開する小売業・飲食業の店長などに関する管理職の判定基準を発表している。
マクドナルドやコナカなどの「名ばかり管理職」を見直すための基準として今まではあいまいな基準しか示されていなかった。
企業はそこに付け込んで、名目の役職名と微々たる手当を餌にして低賃金の労働力を思うがままに利用し、長時間労働を強いることができた。その結果、承知のとおり弱い立場の名ばかり管理職を酷使し、健康を奪い、精神的な意味でも非人間的な境遇に置き去りにしてきた。
中小企業の多くの分野で、同じような処遇により苦しんでいる労働者が沢山いるのではないか?このような疑問にこたえるために、前述の厚労省基準がやっと出されたが、あくまでも小売り・飲食業対象ということで、全産業にわたる法的な影響力は残念ながら期待できないようです。

では一体、今後の労働者保護の観点からどういった見方を忘れてはならないのか具体的に点検してみたい。この作業を、介護業界に照らして行ってみると以下のようなことが言えると思う。

1・管理監督者の定義。
・・・経営者と一体的な立場にあることから、経営にかかわる重要な案件の審議件、決定に関する意見を言う権利、具体的方針を実施する権限が与えられていること。
このためには、例えば年間予算の策定と修正に関する運用諸権限が与えられているかどうか?が一つの指標となり、単にすでに決定された数値を実行することだけが命令され、方針の是非について意見を言う権利がない場合は、この定義から外れていることとなる。
例:経営者の命令により、毎月の売り上げ目標、利益目標が決められてしまっている事業所の長。彼はただ単に、上からの命令を実行することを任されている、「一方的に責任を持たされた労働者」である。これは管理職とは言い難い。
2・人員が足らない時や、臨時のスタッフ不足などが発生した場合、その穴埋めのために働くことが強制され、毎月の超過労働に対する対価が支給されない場合。
・・・手当という形で、何がしかの金額が支払われているとしても、実際の労働時間から計算される賃金目安が残業加算手当よりも少ない金額しか割増賃金を受け取っていないケース。こうしたケースでは本来の管理職に見合う報酬は支払われてはいないことと判断され、労働基準法に違反する。社会的に正当な対価としての残業報酬が支払われるべきである。
介護の分野でも、責任者と位置付けられた人たちが、スタッフの穴埋めのために出勤し、本来労働日ではない日に残務を行い、月トータルで行った残業勤務が給与に反映しない・・・こうしたケースが問題となる。この場合も、その労働者が行った労働については、法律で決められている残業手当以上を支給されるべきであることは当然の権利です。・・・しかし実際には、こうした残業分が、支払われていない場合、残業の申請をしていない場合が多くみられている。○●センター長、○●長という名前だけをあてがわれて、責任だけが独り歩きして身も心も擦り減らされている人たち・・・介護の業界にもたくさん存在しているように思います!
3・勤務時間の裁量が任されているかどうか?
・・・遅刻欠勤などの給与減額がなされていないかどうか?こうした控除がなされている場合は、自由な裁量が任されているとは言えない。
また長時間の労働が行われているにもかかわらず、その対価と給与が支払われておらず労働基準法が侵害されているケースが見られる。ほとんどの場合は、現場管理職という名目で、不在の職員を穴埋めするような必要性から超過勤務が行われているのではなかろうか?こうした場合にも、きちんとした労働対価が支払われなければ、労働基準法に違反している。
4・最後にこの項目が一番根本的な問題だと思われる。現場管理職等の給与が低く抑えられ本来の管理監督者としての報酬からかけ離れた待遇に置かれていることです。
一般的に、介護分野の報酬は、一般他産業と比較して10万円から12万、年トータルで120万から150万の格差が存在すると言われている。実際には、もっと開きがあるかもしれない。
こうした状況下で、たとえ現場の監督者と指名されても、その役職手当は通常の管理職手当から比べると極端に低い。
残業がほとんど発生しない職場での管理職手当支給ということならば、実質的に報酬アップといえるであろうが、残業などの超過勤務が常態化している職場でのわずかばかりの管理手当では、本来支払われるべき残業手当分すら見合わない・・・・こうしたケースが多く見受けられるように思う。
手当を残業時間で計算するとパートの賃金手当にも満たないケースもみられており、たとえ休日出勤することがあっても手当が出されていないこと等を考えると、管理監督者としての待遇は極めて不十分なものであることが分かる。今、介護の業界で名ばかり管理職問題は公にはなっていないが、実際には低賃金に苦しんでいる役職を付けられた労働者は沢山居ると考えられる。彼らは、低待遇を十分実感しておりその改善を求めていても、実際には事業者による待遇改善の動きが見られず、介護報酬の見直し等による介護労働者の処遇改善も来春以降どうなるのか?まだ何らその改善策が具体化されていない。

こうして介護業界での名ばかり管理職問題は、日々燻っている。
離職率においては、1年目で約3割の人達が退職し、3年目には約半数の人達が職場を去る・・・5年後には何と8割の人達が辞めていっているという統計がある。(NCCU組合調査より)
何とか利用者の要望に応えられる喜ばれる支援を継続したい・・・こうした願いを実現するために懸命に毎日の業務を継続している残されたスタッフは、まさしく日本の介護における「縁の下の力持ち」です。
こうした地道に介護の分野で踏ん張っている人たちに、労いと温かい処遇を用意することが、今後の日本の高齢社会においてどうしても必要な施策であると確信します。
政治も変わらなければならないでしょう。
お役人たちも変わってもらわねばどうしようもない。
今後の10年20年後に取り返しのつかない汚点を残さないためにも、介護業界での人材確保=待遇改善を急げという声を強めていきたい。いま私たち一人一人が発信して声をもっともっと大きな声にしていかねばと思う。財源確保から見ても、人材確保から考えても、このままでは日本の介護は危ない!