在宅復帰の困難性について。

no-mu2008-10-25

私が関わっているある利用者の在宅復帰のことです。
半年ほど前に脳内出血を再発して、病院での急性期治療が終え、これからどうしようか?ということで本人(60代半ばの男性)を交えて相談しました。
ADLとしては、以前より能力が低下して自分で寝返りが出来ず立ち上がることも移動に関しても全て人の介護を受けなければなりません。
・・・普通そういう状態になられた場合、「もう、施設で暮らすほか仕方がない」と結論付ける他仕方がないのですが、今回、本人が強く在宅復帰を希望されました。
確かに、食事に関しては、とろみをつけた水分摂取とペースト状の食品を自分で(左手)食べるまでになられたのですが、野菜なども軟野菜でしか摂取できず、見守りが必要です。
また、排せつに関してもおむつでして頂きまだポータブルでの座位が取れない状態です。きっと、練習すれば座れるはずですがその介護に人手がいるので今まで行っていないように思います。
・・・こうした状況において、果たして自宅に戻って暮らしていけるのか?この問いについて、もし家族さんの協力が得られるならば、明るい見通しもあると思う。
しかしこの方の場合お一人住まいで、しかも生活保護の暮らしです。日常生活において、常に目を配りお世話をする人がいないのです。

こうしたケースをどう支援するのか?というカンファレンスを幾度か持ち、本人の帰宅願望が高いことを考慮して一度自宅に戻ってみようということになりました。
ケアマネとして、本人の自宅での生活を考え、介護保険サービスと障害サービスを最大限組み合わせて、可能な支援を計画し開始へ向けて調整を進めていた矢先、病院相談員から連絡が入ったのです。
「ストレス性の体調不良が出現して、急性期の病棟に戻る必要が出てきた。在宅復帰については白紙に戻したい」
以上の説明により、この方の在宅復帰はいったん中止ということになりました。
どういうストレスなのか?具体的に問うと、食事をあまり食べなくなり、水分摂取も減少し、表情も硬くなって何を問いかけても話をしなくなった、とのことでした。血尿も出ているとのことで、原因を調べて治療する必要があるとのことでした。

先週のカンファレンスで本人と面談した時には、「もうすぐ自宅に帰れますよ。しっかりリハビリをして、自分で出来る事を増やして下さいね」とお話しすると、「うん、うん」と頷かれていました。しかし、確かに表情という点では、微妙に自信なさそうな不安を読み取ることが出来ましたが、ある程度は自分で克服して頂く必要があると考えていたのです。
例えば夜間においては、お一人で過ごしてもらわなければならないし、いざ何かをしたいときもすぐ人を呼べる環境はありません。
病院や施設のように、すぐに人にお願いすることが出来ない以上、自分で何とかしなければならないのです。
きっとこうしたことを考えて、利用者さんとしては不安になられていたことと思われます。


まだ、第1号保険者になられたばかりの年齢で、もっともっと自分で楽しみたいことも沢山あろうと思われますが、一旦こういった体になってしまった以上、自分でどうやって暮らしていったら良いのか途方に暮れておられるというのが正直なところです。

このように考えてみると、障害を一定程度持ちつつ病院施設から自宅に復帰するということはかなりのリスクが伴うことが分かります。
いくら本人が在宅復帰を希望されても、それを支援する制度にはおのずと限度があり、必要に応じていくらでもサービスを組み込める環境にはないのです。
したがってどうしても、おかれているその方の生活条件(そこには家族の介護力も含まれますが)により可能かどうかの分かれ目があるように思います。

年齢が若ければ、障害を持っていてもそれを克服してヘルパー等の支援を受けながら生活を組み立てていくことも可能でしょうが、高齢者の場合はかなり難しい状況にあると思う。

厚労省は、病院施設からの在宅復帰を大きなテーマとして掲げているが、実際のそれぞれのケースを考えていくと簡単にはそうした復帰というものが多くの困難性を伴っていることが分かる。この意味ではもっと厚みのある支援体制が公的に保障される必要性を痛感します。

私の経験したこのケースにおいて、果たして利用者さんは今後どういう選択をされるのか?それは本人に託された問題ですが、少なくともそれを支援する側として、現状の在宅復帰体制があまりにも軟弱であることを痛感します。現在の介護保険制度では、とても紹介したようなケースでは在宅復帰計画を進められないだろうな?と痛感します。