非正規労働者の大量解雇と介護労働者の待遇改善について。

ご存知のように、春からの介護報酬改定の概要が昨年12月26日に発表されました。
居宅が1・7%、施設が1・3%の引き上げ幅になるらしいが、特徴として新しい加算が沢山新規で作られたようです。

訪問看護では短時間の身体介護(30以内の身体1が、23単位アップされた)、また30分以上1時間以内の生活支援が、21単位アップとなっています。
これはそれぞれ254単位、229単位と引き上げられることになりますが金額にすると、それぞれ地域加算をかけた金額が実際の単価となります。また、各地域区分の単価が見直されることとなり、例えば東京の特別区になると、上乗せ12%から15%に引き上げられることとなる。
人件費についても、45%、55%、70%という具合に分類されて、要するに人件費比率の高い事業所については、高めの加算算定が出来るようになるらしいが、この算定方法については、まだ詳細が伝えられていません。
今分かっていることは、短時間の訪問介護が少し単価引き上げとなり、その分がきちんと訪問介護スタッフに還元されるのかどうか?が問題です。

訪問介護事業所のキャリアに着目した加算も増えましたが、介護福祉士や介護職員基礎研修課程修了者・1級訪問介護員等の資格を持ったスタッフが、50%以上いる事(または介護福祉士の割合が30%以上)という人材要件の?と、
全てのサービス提供責任者が3年以上の実務経験のある介護福祉士または、5年以上の実務経験を持つ介護職員基礎研修課程修了者・1級訪問介護員であること。・・・等々の人材要件?はかなり厳しい要件ですので、果たしてこれをクリアできる事業所が何割あるのかどうか?疑問が残る。

まして、介護従事者の退職や転職が毎年3割程度出ている現状で、ここで掲げるような高いレベルの要件を人材要件として提示しても、それをクリアできる事業所はどうしても限られてこざるを得ないと考えます。
また特定事業所加算訪問介護)では、人材要件プラス体制要件(研修や定期的会議の開催、議事録の記録や健康診断の実施・緊急時の対応明示等の要件)が満たされるか、それから重度要介護者の割合が2割以上であることなどが2つ以上クリヤされる必要があり、この加算を取得できるにはかなりの事業所の準備と努力がなければ難しい加算要件となっています。また仮に加算が認められたとしても、その1割もしくは2割増しの費用というものがすべて利用者の1割負担と繋がっており、要するに利用者は良いサービス事業所を使うことにより、それだけ高いサービス料金を支払わなければならないこととなる。

この小論で、今回の報酬アップの評価をするにはあまりにも大雑把過ぎる。しかし、一番重大な問題はこの引き上げが介護労働者の待遇改善につながらないのでは?という疑問と不安です。
そもそも、今度の報酬アップの狙いは介護労働者の低いレベルをどれだけ引き上げるのか?という問題からこれまでいろんな意見が出され、お偉さんたちが相談して決めたことです。
正直言って、今回4月からこの改定を前提に介護スタッフの給与を引き上げられる事業所がどれだけあるのか?またどのくらいのアップにつながるのか?一番関心があるのです。
もし、高々数千円くらいのアップでお茶を濁され、それで介護労働者の待遇が改善されたと評価されるとしたらまるでお笑いです。また、事業所によっては財政悪化を理由に賃金の据え置きを打ち出すところもおそらく出るでしょう。
少なくとも、一人の介護労働者の月収として考えれば、数万円単位の収入アップが現実にならない限り、問題の改善には到底ならないと考えます。
介護事業所は、今度の改定が収益を改善させるものとなるでしょうが、それを本当に人件費アップのために用いる責任というものがある筈です。今度の改定で、こうした各事業所の人件費に対する割合比率が報酬単価に少しは関わることが打ち出されていますが、果たして引き上げ分をどう使うのか改定概要を見ても明確な文言が出されていないわけです。早い話が改定と待遇改善がリンクされていないわけです。こうなると、拘束力のない努力目標のような形で介護労働者の待遇アップは全く保証されていないというのが正直な結論です。

いったい何のための改定なのか?がぼけてしまっており、多くの加算新設に伺えることは「御駄賃が欲しけりゃ、それだけ余分に仕事をしなさい」という厚生労働省の意向です。
介護労働者の待遇改善がテーマであるのに、結局は労働の質を上げる事が促され、一定のレベルの仕事が保証されない限り待遇改善もままならない、ということがはっきりしたのです。

11月ごろから、非正規労働者の切り捨ての問題が一挙に社会化し3月には八万人以上の失業者が出る状況においてどちらかというと介護労働者の問題は陰に隠れてしまった感があります。
でも、この問題は実は超高齢化社会とつながっていると思います。別の問題ではなく、これからは両方の問題が複合化して社会問題になるでしょう。

もちろん、介護の分野に少しでも多くの人達が入ってくること自体は歓迎すべきものですが、人の研修と学びなしには良い介護は生まれてこない。その教育的な側面を保証させるためには、もっと国家が人を育てるためのすそ野を広げる事、特に中高年の転職組の人達が良質な介護労働者に育つための受け皿づくりが問われていると思います。
自己責任で、資格を取る気がある人だけが受け入れられるのではなく、社会自体が介護労働者を育てる窓口を広げて助成し、あふれている失業者に介護の仕事の魅力を示していくことが求められていると思う。