ああ、10万円の賃金格差、是正の道は遠い。

オキザリスの花

2月13日、「日本介護クラフトユニオン」(組合員53000人・河原四良会長)の中央委員会で今春闘に月給制組合員一人平均で13000円の賃金引き上げ要求を行うことを決めたと報道されている。
この決定の背景として、介護労働者の平均賃金(213000円)が、全産業平均(318000円)と比べて、ざっと10万円の格差が出来てしまっていることが指摘されている。
また、ここ三年、介護業界では賃上げがほとんどなされず、格差はますます深刻なものとなっていることが明らかとなった。・・・ちなみに、介護大手のニチイ学館ではここ三年賃上げはゼロ回答のままで、08年度はもっとも賃金が安い事務職だけが月額1000円引き上げられた?この1000円をどう評価したらいいのか?年額にして12000円、無いよりはあった方がましだろうが、せいぜい年一・二回家族で外食が楽しめる程度の上積みだが、下手をすると税金等が加算されて手取りは年額上昇分が1万円を切ることになる。こうした微々たる給与アップしか果たせなかった当事者の組合が、今年13000円を満額企業から引き出せるとは誰もまともに考えてはいない。

組合は、格差是正分として、「1万円は企業が出す義務がある。残り3千円は物価上昇分」と説明する。・・・しかし、この論法はあまりにもおおざっぱ過ぎはしないか?
格差の是正を言うのなら、どうすれば介護労働者の待遇改善の道筋を作れるのか?の基本的な観点が必要だと思う。10万円の開きが出来ているから、まず1万円下さい、という論法は、これまで賃上げをサボってきた企業と労働指導部の反省がみじんも感じられない思いつきの発想でしかないと言えまいか?

もし、介護保険以来八年の過程の中でもう少しまともな賃上げを引き出し得ていたなら、格差の方はもっと縮められていたのではないか?と推測できる。
クラフトユニオンは、ゼンセン同盟の下部団体であり過激な闘争方針を避けて企業から交渉による譲歩を引き出す戦術で組合勢力を拡大できると考えてきた。
しかし、クラフトユニオンの組織自体、ここ数年頭打ちで組合員の減少がみられており、介護労働者全体の中でのシェアーは僅か数%でしかない。つまり、組合運動自体が低迷しているのです。・・・たしかに、名目5万人の組合員数を持つ介護労働組合は、日本ではみられないかもしれないが、実際の組合の活動実態が果たして5万人に値するような活動をしているのか?と問えばすこぶる脆弱な体質を持っている。憂うべくは、組合費が活動不足のために蓄積されて、「ドンコミ企画」と称して、リクレーション活動・飲み食いイベントに消化される・・・こうした実情は、本来の組合としての結束をますますその屋台骨から崩壊させるものではないのか?と危惧する。肝心の職場での組合員のコミュニケーション・話し合いなどは殆どの拠点ではまじめになされてはいない。・・・これは組合員の意識が低いからではなく、指導部がしっかり問題提起と提案、可能な運動計画を積み上げていないことに起因している。

クラフトユニオンの主たる分会はニチイの分会だが、その殆どが登録ヘルパーです。彼らは非常勤で働くものが多く主婦業などで子供を育てながらの仕事をしている。当然、仕事以外で組合活動に協力する人たちが少なく、なおかつ自分たちの時間給はずっと据え置かれたままの状態なので鼻から組合には冷淡な感情を持っている。「どうせ、私たち登録ヘルパーの待遇改善は後回しにされるだけだろう。時間給も安いけど、他に適当な仕事がない以上、2級ヘルパー資格で好きな時間に仕事が出来るヘルパーの仕事を続けること以外選択肢がない」・・・こうした諦めが、殆どの登録ヘルパーの心の中に宿っているのではないか?と十分な根拠を持って代弁することが出来る。

この3年間、多くの組合員はクラフトユニオンの組合指導部に対して賃金の引き上げを勝ち取るように厳しい声を本部に届けてきた。このことは指導部は否定しないだろう。増え続ける退職者の背中を見送りながら、このままでは人材育成は危機的な状況を迎えることになることを危惧し、打開策を検討してそれを企業経営者に突きつけることを果たしてきちんとしてきたのか?大きな疑問が残る。

この時期、介護労働者には不利と思われる状況展開がある。それは非正規労働者の製造業を中心とした大量解雇が社会的な雇用問題となり、もっとも急務な対策がそちらの救済問題に焦点が当てられていることにある。・・・本来ならば、今の時期は介護労働者の4月報酬改定によりどれだけの待遇改善が各事業者からもたらされるのか?(事業者は出し渋るだろうが、それを許さない断固とした組合の姿勢こそが介護労働者の支持を集める絶好の機会であるはずだ)それを社会的に監視することにこそ注意が注がれる必要があったはずなのだが、現実はそれが暈かされつつある。
介護スタッフの待遇改善をするための報酬改定が、いつのまにやら、事業収支を改善するためにかすめ取られ、報酬改定にすり替わってしまうことになるかもしれない。

ここで注目されるのは、介護業界の労働組合が果たしてどういう交渉を積み重ねて自らの待遇改善のための譲歩を勝ち取ることが出来るのか?が問われている。
こうした苦境にあるときに、労働組合が踏ん張り、組合員のパワーを集約して困難な賃金待遇改善を現実にものにすることが出来るのかどうか?にかかっている。

はっきり言って、現状の組合指導部連中では、したたかな企業経営者たちとの賃金交渉に勝ち抜くことはきわめて難しいと言わねばならない。
おそらく、今までのような戦い方しか知らない人たちでは、この現状で企業の上をいく交渉力はどう考えても期待できないから・・・

こうした状況の時こそ、新たな介護労働者の声が現状組合レベルではない形で始められる必要がある。
その形がいったいどういう形なのか?それはまだ分からない。しかし、方法はあるはずだ。
なぜなら、私たち介護労働者は企業の経営者と取り巻き連中を遙かに上回る人材と知能を持っておりなおかつ多数派であるからです。
私たちがまだ弱いのは、自分たちの協力の仕方と、新しい時代にあった団結の仕方を知らないだけの理由にある。・・・このパズルを解くことが出来ればそこから全てが始まる。後はその情報を社会に情報発信すれば自ずと力は集積されると考える。
コンピュウターや、情報収集のための道具は企業と同等に私たちにもそれを運用する条件が与えられており、その意味ではどちらが未来の平和と安定をもたらすべく介護労働者の支持を集めることが出来るのか?が問われていると言えよう。少なくとも今の時点では、企業の方が一歩先を進んでおり、私たちはまだその黄塵を浴びている状態だと言えよう。

今後、こうした屈辱の時間をどう縮めて、新たな介護労働者のつながりが出来、深まる超高齢化社会に対応しうる体制作りが本格化するのかどうか?それは私たち自身の目覚めと気づきにかかっていると言えよう。

14日,15日の両日、和歌山にて近畿介護支援専門員協会の研究大会が開かれたので出席してきました。分科会では、事例発表もさせて頂き、有意義な研修の時間が持てたと思う。しかし、春の報酬改定問題では、日本介護支援専門員協会の木村会長の説明に胡散臭さを禁じ得ない不安を抱きました。「今回の改訂では、基本単価の引き上げ(居宅の基本単価は据え置かれたままです)はされませんでした。しかし、事業所加算についてはその要件が大幅に緩和され、加算?の新設により取得しやすくなった。皆さん、事業所加算をどんどん取得できるように主任ケアマネ資格を取得して加算をとれる事業展開をして下さい。そうすれば居宅の収支改善は大幅に改善します。等々・・・」

彼は、介護支援専門員の国家資格化についての展望も語り、「次の改訂に向けて、国会議員・与党政治家との連携を深めるべきである」と続けた。

しかし、こうした彼の論法はどこか現実と遊離している。
なぜ、一律の報酬単価を引き上げて明快な収益改善を図りそれを介護スタッフのために振り向ける試みを放棄したのか?その責任をこそ今政治家たちに問うべきなのでは無かろうか?
今度の改正の一番の骨子は、介護労働者の待遇改善に焦点が当てられていたはずなのに、ふたを開けてみれば複雑な加算を多数作ってそれを取得するための余分な帳票作成の仕事を生み出したのか?その責任が問われるときがくると思う。
日本の介護支援専門員の横断組織の長として、あまりにもその資質が疑われる発言であると自分は受け取り聞きました。
より制度が複雑怪奇になり、それを理解しようにもお年寄りには難解な加算方式が介護保険に取り込まれています。

私は、介護保険はもっとシンプルで、疑問の余地の無い明快な制度として再整備される必要があると考えます。今行われようとしている改正は、その逆行でしかない。

以下の写真は、紀伊田辺の海を朝撮ったものです。