“Flower and Troops”を観て感じたくと。

<映画・鑑賞ノート>
“Flower and Troops”「花と兵隊」監督:松林要樹
http://d.hatena.ne.jp/motokiM/
戦後日本に帰還しなかった元日本兵が諸外国に居る。
今回インパール作戦等に従軍した6名の元日本兵を焦点に、何故彼らは日本へ帰還しなかったのか?について3年にわたる取材が行われた。なぜ3年もの年月が必要だったのか?6人の取材を通じて明らかになったことは何か?・・・様々な憶測が入り乱れる。
監督はまだ若干30歳の松林監督。この作品が監督として初めての作品だという。
筋書き等はこの映画のホームページにて紹介されているので、知りたい方はサイトを詳しく見て頂くこととして、私は自分の感想を以下に書いてみたい。

☆、戦争ものといえば、誰もが想像するのは夥しい兵士たちの死体と人々の生活が破壊された惨状が想像される。しかし、この映画にはほとんどそうした映像は収められてはいない。もちろん、登場人物からかっての戦争のリアリティーは言葉として放出されてはいても、ほとんどは涙や痛みさえも乾いてしまったかのような会話の連なりが録音されているだけだ。
日本から駆り出された兵は実に33万人。そして、ビルマを舞台にした戦争下で亡くなった兵は19万人に及ぶという。もちろん戦闘行為以外で、飢えや病気で死亡した兵士が多数を占めていると言われているが、こうした戦争下で現地の住民もまた夥しい死傷者を出している。
こうした戦争が終結し、大多数の生存日本兵は国を目指して帰還した。
ところが、未帰還の日本兵たちがいたことについてはあまり注目をされていない。
一体何故、彼らはビルマの国に留まろうとしたのか?こうした疑問を解き明かすドキュメントとして、今回の松林監督の映画は製作されている。
☆、6人の兵士たちは、事情はそれぞれ異なるがいずれも現地の女性と結婚をして家庭を持ち、その土地の人々と共に今日まで暮らし続けてきた。もちろん、平坦な生活ではなかったし敗戦を通じての戦犯訴追にも怯えながらの暮らしだった。
彼らには日本に帰るという選択肢もあったはずなのだが、現地に残って現地の女性と夫婦と成り家族を作ることを選んできた。そしてそのことを彼らは恥じてはいない。テレビ等の情報を通じて、日本の経済的な繁栄のことを知っていただろうが、それよりももっと大切な生活がそこにはあったということなのか?きっとそれはお金でもなく名誉でもなかっただろう。日本人としての誇りですらなかったように思う。彼らが選んだのは、人間として素直に毎日を過ごす現地の人との暮らしがあった。
☆、とりわけ、いずれの未帰還兵たちも現地で夫婦になった女性達のうら若き頃の写真を持っている。60年前の彼らは、20代の若い男女であり、たくましく美しいポートレートとして撮られている。
彼女たちは男たちにとって、まさしく戦争の廃墟に咲く花であったのだ。
日本兵たちの多くは、戦争が終わって村の美しい娘たちと恋に陥り結婚をして家庭を持った・・・こうした自然ななり生きは、この映画を見て抵抗なく行け入れる事が出来る。
国家の命令で行われた戦争の為に、見知らぬビルマという国に連れて来られたが、敗戦となり自由の身になって一人一人の生き残った兵隊たちは何の為にこんなにも辛い戦場に置いてきぼりになったのか?分からなくなったことだろう。
日本の国に自分を待つ家族が居るものは、故郷の家に一直線に戻ったことであろうが、日本に戻るべき家族も家もない者にとってはもはや全ての関係から見放されてしまった自分という人間を見せつけられることになったのではなかろうか?
こうした心の空白を埋めるものとして、現地の女性との恋と結婚があり、その後の現地の人達と共に暮らす生活が続いていったように思える。
・・・こうして考えていくと、未帰還兵が何か特殊な人達ではなく、ごく普通の幸せの形をビルマにて見つけ出した男たちであったことがうかがい知れる。
映画に登場する女たちはみな明るい。日本人を夫としたことについて、もちろん後悔することなく彼らの思い出を懐かしく語っている。
兵としての装いを捨て、一人の男として現地で生きている人達の生きざまの中に、人が本来大切にしなければならないものは一体何であるのか?が語られているような気がする。
夏本番、季節感をかもち出す真っ赤な朝顔が、早朝から咲いています。


朝顔の葉っぱを潜り抜ける細長ーいスペースがずっと上の方まで続いています。何時までも静かに潜んでいたいなぁ