電車の中で、誰もが体験する光景を取り上げたい。

梅雨の時期、雨が降ったりやんだりの日曜日、急行電車に乗り約30分の時間を過ごしていた。
乗車率は100%くらいだから、立っている人は少ない。
 斜め前に座っていた誰かの傘が揺られて通路に倒れている。しかし、誰も拾おうとしない。座席にいる何人かの誰かのものと思われるが、拾われることなくそのままになった。途中、車掌が傘をまたいで行き来した。普通なら、「この傘はどなた様のものですか?」と聞いてもよさそうなのに。なぜ持ち主がだれか聞かないのか?「車掌としては気が利かない」と私は感じる。
私が見たところ、傘の近くにいる娘が持ち主では?と思われる。彼女は電車に揺られてコックリコックリ目が半閉じ状態になっている。時折、横に放置しているスマホの画面を見ているようだが、意識はもうろうとしている様子。停車駅が二つほど過ぎて、乗車してきた人たちが迷惑そうに通路に転がっている傘をまたいで過ぎても、一向に気にも留めないようだった。「人の通行を妨げている障害物」が目の前に落ちているなら、それを除去しようと普通なら感じるはずだ。しかし、娘は知らんふり。まるで倒れている傘には興味が無いかのように。
 私の自宅の降車駅になり、席を立つと娘も席を立った、そして、何事も無かったかのようにその落ちて転がる傘を拾い上げてである。…ところが、数歩娘が歩き始めたところで、向隣に座っている40台と思われる女性が「すみません、すみません!」と甲高い声を上げた。それでも娘が呼びかけに答えず降りようとするので、倍くらいの音量で「すみません、これ!」と小さな小物入れバッグを指さして叫んだ。さすがに娘も忘れものに気づき、引き返して小物入れを取り上げた。
 驚いたのは、それからだ。礼も言わずに、忘れ物を取り上げ、そのまま何事も無かったように下車して行った。
 その光景を目の当たりにして、私の気持ちが理解に苦しむ思いになった。一つは、常識がない娘っこに対して、もう一つは小物入れの忘れ物があることを促した女性に対して。「何で、済みませんなのか?忘れてるでしょ?」で良い。さらに付け加えて、「しっかりしなはれ!」と付け足してよいのではと感じる。また、当の娘に対しては、「言ってくれた相手に、お礼を言うのは人としての礼儀だ。そんなことが分からんのか!」と一括してやりたく思う。今日は父の日だから、男性として、少し凛々しい言葉を言っても許されるのでは?とも感じる。
 たかが、日曜日の急行電車内での一コマであったが、書き留めておきたい場面と思えたので、文章にしてみた。
 登場人物は、車掌と娘と横に座っていた40代女性であるが、こうした一連の流れを見て何がしかを感じている自分という者がいた。自分は今日の事に関しては単なる傍観者だ。しかし、もし自分が車掌問職業についていたら、転がっている傘を放置してそのままにすることはないと思い返す。また、娘の横に座っていて、忘れ物の子袋に気づいたら、済みませんとは言わず、「娘はん、忘れとるで!しっかりしいや。」くらいは言わせてもらうだろう、と思う。「ぼやぼやしてたらあかんで。それにちゃんと礼が言えなあかんやんか」とは思っていても言えないが。
 でも、もしその子の父親なら、そういう言葉が口から出てしまうかもしれない。忘れるのは仕方がないとして、人から声をかけてもらったら、きちんと挨拶が出来る子供たちが、今減っているのでは?
 今日の父の日、そんなことを考えました。