no27細心の注意を怠った経験を話します

こんな失敗を、今更公にするのもどうかと悩みました。・・・しかし、自分達以外でも、きっとこうしたトラブルが起こりえることを思い、恥ずかしながら、書くことにします。これは、自分を初め、此れから契約等を行う全てのケアマネさんや、サービス提供責任者の方が心得るべき大切な心構えでもあります。



ある80代の、(日中は1人暮らしをしている)生活援助を希望する男性の契約時の説明をしている中で起こったことです。

足腰が不安定となり、転倒することも増えて、一人で買い物や通院が難しくなってきて、介護保険でのサービスを希望されました。無事、申請と認定も受けられて、次ぎは、ケアマネとの契約、それから、サービス事業所(住宅改修事業所)との契約・・・と、とんとん拍子で事が進んで行きました。

家の中での転倒を防ぐために、まず生活環境の改善として、住宅改修を進めました。玄関の踏み台設置と、手すりの取り付けを最初に急ぎました。(お風呂場、トイレ、玄関と外へ出る階段の手すり)20万円までの介護保険での枠に収まる工事になることが見積もられ、口頭で利用者の了承を得る事が出来ました。自己負担金も、約1・6万円になりそうなことも説明して、同意を戴きました。後は、正式な見積書を事業者から戴いて、それにサインを貰い、ケアマネの住宅改修理由書を作成する事と、もろもろの書類を工事担当の事業所に揃えて頂き、役所の許可が戴ければ工事に掛かる事が出来ます。ここまでは、うまく事が運びました。



次に、買い物の援助が必要となるので、訪問介護の事業所との契約をして頂く事となり、私も、担当ケアマネとして、その場に同行する事となりました。



ここで、二つの障害が起こりました。

一つは、介護サービスでの、利用者の1割負担の説明をするに及んで、利用者が異議を唱え始めたのです。

どうやら、利用者さんは、かっての”措置の時代”と勘違いして、サービスは基本的に利用料が要らないと思われていたようです。

住宅改修のときに、あれだけ1割負担の事を説明して同意して頂いたと思っていましたが、今回、生活援助の利用時間と回数に伴う、利用者の自己負担の扱いに付いて、「何で、俺ら年寄りから、そんな金を取る?」と怒られたのです。続けて言われることは、「俺達は、ちゃんと保険料を毎月何千円も払っている。それで充分じゃないか?」と興奮して話されるので、暫くは、それを聞いていましたが、そのままでは埒が空かないので、役所が発行するパンフレットを開いて、保険料と、利用料は別物であること、保険料は、40歳以上の人は皆例外なく引かれている事を説明する。

其の上で、サービスを利用する人は、基本的に1割の負担をしてゆくことで、保険財政が成り立っている事をお話しする。・・・こうした説明を、未だ分かっておられない御年寄りが、沢山居られる事を身を持って知る事が出来たのですが、なかなか納得されません。近所のどこどこでは、無料でこんなことをしてもらっているなど、段々横道に逸れはじめたので、こちらも端的に制度を説明し、繰り返して判って貰えるまで、説明を続けました。

繰り返し説明する事で、半分自棄になって、「よし、もういい、判った」と言われても、本当に理解されたのかどうか不安になる。・・・しかし、殆ど、怒りに震えておられる利用者を前にして、これ以上感情を刺激することも良くないと思い、判って頂いたと判断して、次の説明に進んでゆきました。



恐らく、こうした高齢者の心理は、自分達を国が介護する事は当たり前、と思われている側面があるのかもしれない。・・・太平洋戦争を軍人として戦い、死線を超えて日本に生還し、何もかもが焼け出された戦後のどさくさを、必死に生活のために生きてこられた世代である。こんなに、命をかけて生きてきた俺達の老後を、国が責任を持って見守るのは当たり前、と思う背景が確かにある。そう感じておられる高齢者に罪は無いのです。

ましてや、80歳を過ぎて今まで、”せんぞ”保険料を払って生きてこられた世代である。「利用料ぐらい、タダにしてくれたって良いんじゃないか?」と思われるのも、不思議とはいえない。



利用料の発生については、繰り返し粘り強く説明する中で、判って頂く他仕方ないでしょう。

説明する私たちに必要な心構えは、相手を馬鹿にするような発言、高齢者の尊厳を傷付ける様な態度を慎むことだと判りました。



さて、次に、訪問介護の契約について説明していただき、重要事項の説明なども行って、サービス開始のための必要な説明を続けました。・・・特に、介護保険では認められていない、サービス外の事項などを例に挙げて納得して頂くよう勤めてもらいました。説明自体が1時間を越えて、次第に利用者本人も疲れられ、「もう、そんな事はええ!」と痺れを切らされてきたので、利用料の振込み先指定の説明をし、出来れば振り込み指定に協力してくださるようお願いをしました。(訪問介護事業所として、毎月の利用料を指定された口座から引き落とすよう手続きをすること)

この際、利用者から、銀行の通帳をお借りして、利用者の代わりに書面に通帳番号を記入しようとしていた時の事です。

(私も横に控えておりましたが、サービス提供責任者が、通帳の印鑑に関して、渡されたものと照合しようとして、通帳の印鑑照合の部分を探して確認しようとした時です。「中身を見たら駄目じゃないか!」といきなり激怒されたのです。

決して、担当者は、口座の中身を見るためにぱらぱらと捲ったのではないのですが、猜疑心ある利用者から見れば、口座の中身を見た、と怒られたのです。・・・ご存知のように、最近の口座は、昔の口座のように、印鑑の照合部分はありません。したがって、その印鑑が正しいものかどうかは、本人が覚えていないと、窓口に持っていって確かめないと、誰も判らないようになっているのです。

ところで、振込み扱いにする届出書類のミスで多いのは、印鑑の間違い、ということが結構起こっているのです。だから、今回の場合も、念のために、印鑑の正しいかどうかの確認をしようとした、というのが事の発端だったと思います。



ケアマネが横に居ながら、このような初歩的なミスを犯し、自分としても不注意であったと思います。仮に、通帳を預かって、利用者の代わりに記入をする場合には、こうした注意を念には念を入れて行う必要があったことをいまさらながら軽率であったと反省しています。



その場で、すぐ、利用者に謝り、此方の非を詫びて、印鑑確認のつもりで見たことを説明しました。此方が誤りを犯したことは、素直にお詫びして、頭を下げて許して頂くほかありません。・・・勿論、数字がどういう内容であったのかどうか、私たちは記憶していないことも伝えました。



しかし、このことがあってか、利用者は、振込み指定の手続きをすることを拒否されました。だから、結局、その利用者さんに関しては、現金回収という形にせざるを得ませんでした。

(殆どの訪問介護の利用者については、その事業所の口座引き落としの形で会計処理をしているのですが、今回、このような不信を招いたことにより、利用料については現金での徴収にならざるを得なかったわけです。



もし、今後、利用者との信頼関係が修復された場合には、引き落としの了解が頂ける様になるかもしれませんが、一番の問題は、利用者の不信感を招いてしまったことです。

ただでも、介護保険の利用料支払いで、カリカリ来ている利用者が、利用料の支払いと、通帳の”覘き”までされては、怒り心頭なのも尤もな事です。これについては、こちらが、一方的に初歩的なミスを犯したわけであり、謝る他仕方が無いでしょう。

一度、落としてしまった信頼を、元に取り戻すことはその何倍かの努力と勢力を費やしてもなかなか元に戻るものではないでしょう。特に、お金が絡んでいることにかけては、致命的になる場合が多いものです。

今回、ケアマネと、サービス提供責任者がこうした初歩的なミスを犯し、利用者の怒りを招いてしまったことを反省し、今後は、より慎重を期したサービスの説明と、手続きの代行をしてゆかねばならないと痛感するものです。