「アルツハイマーを知るために」著者・佐藤早苗

発行所・新潮社 新潮文庫
発行日・2007年3月1日
*この本は医療専門家が書いているのではなく、この病気に罹った父親を介護した家族の一員として今後この病気と遭遇するであろう人々に向けて書かれた本です。
アルツハイマーは一旦罹ってしまうと、決して治ることのない病気です。
少なくとも、現代医学では少しばかり進行を抑えることが可能な薬が開発されてはいるが、この病魔を根絶する特効薬は生まれていないことは確かです。
なおかつ、アルツハイマーが脳疾患のうちでも最も恐れられている病気であることも事実であり、患者を抱えた家族が抱え得ていかねばならない苦しみは、想像しているよりも深刻です。

作者は、尊敬していた父親がアルツハイマーに侵されて4年間の病気との闘いを経験し様々な介護する者の苦痛を通じて、今後この病気と社会がどのように対峙していく必要があるのかを問題提起している。
アルツハイマー病に罹った初期において、真っ先に異常に気づくのは本人だと言われている。
考え得られないようなもの忘れと忘却の日常に遭遇して、戸惑いを感じながらも自分の状態が何であるのかを知ることが出来ない。・・・異常に気付いて、専門医に診てもらえば良い・・・こう後からは誰でも考えられる。しかし、当初、自分の状態が病に罹っているなどと、だれも疑うことがない。少しばかり物覚えが悪くなり、ミスが多くなったことには気ずくことが出来ても、それがアルツハイマーであると誰が悟ることが出来ようか?
こうして単なるもの忘れと、アルツハイマーの始まりによる記憶喪失とが分別出来ないことから、多くの人は不安のうちに初期の疾患期間を通り過ぎてしまうものだという。そして、結局病気が深刻な障害を呈してから家族や身近な職場の同僚などから病気の疑いが持ちだされ受診をすることになってしまう。・・・すでにこの時点では病気はかなり進行してしまっており、日常生活が普通に暮らすことが出来ない状態となる場合が多い。
*先ほども述べているように、一旦アルツハイマー病に罹ってしまうと決して治ることがあり得ない病気である関係から、この病気の告知に関しても難しい側面を持っている。著者は初期の段階での告知が必要なこと、病気に対してどういう治療が有効なのかをしっかり医療専門家と膝を突き合わせて話し合うことが大切であることを説いているが、残念ながら症状が進んだ状態では本人にどれだけ説明してもすぐ忘れてしまい理解を得ることが困難となる。
この意味ではアルツハイマーの早期発見の為のマニアル作りが必要となる。
どういう検査を受け、どういう状態の時に専門医の検査を受けた方が良いのかを知ることで、もしアルツハイマーに罹った場合の早い対応が可能となり、それが病状の進行を何年間かは阻止することが可能となる。疾患が個性的な状態として現れる関係上進行の度合いは人によって異なり薬の作用により長い期間の効き目が現れる場合もあるが、逆にほとんど効果が見られずに病気が進行し重症の状態になるケースもあるという。
アルツハイマーの症状が進行すれば、自分のことも一切分からなくなりもちろん家族の認識も無くなる。夜昼に関係なく妄想に襲われれば大声を張り上げて身近な人に暴行に及ぶこともある。人間としての理性が破壊され、行動の抑制が無くなってしまう病気です。
日本でも、この病気に対する研究が進んでおり、世界でも有数の研究者たちが日夜新薬を開発するために努力を重ねているとのことだが未だに特効薬は出ていない。はたして、アルツハイマー病を決定的に抑制し根治する薬が今後生まれるのかどうか?分からないが、少なくとも現状としては、この病を治す薬は開発されていない以上、患者と家族をどう支えていくのかが私たちに問われている。
現在の制度では、患者や家族にとっては極めて不十分な治療環境であることを認識し、佐藤さんが提言している早期発見の為の制度作りを是非進めてもらいたい。また、社会の中で、こうした患者と家族を孤立させないためにも、もっとこの病気に対する認知度を高める必要があると思う。
*この本には、アルツハイマーに対する患者と家族の角度からの実態と反省が込められているような気がします。

アルツハイマーを知るために (新潮文庫)

アルツハイマーを知るために (新潮文庫)