ハーバード方式とインシデント方式。

no-mu2009-03-01

大学のハーバードから語源がきているのか?どうか分かりませんが、事例検討で言うハーバード方式は、従来の事例検討方式にて事例情報を埋めていくやり方です。
その人の個人情報とされる固有のデータを、疾患、病歴、日常生活のADL、家族関係、生活環境に介護状態・・・等々の情報を事例情報として埋めることによりその人の支援計画などを分析する元にするのです。
こうした事例検討ようの書式を埋めていくことは大変な苦労が要ることになります。時間的にも余裕がない限り、なかなかこうした文章を準備することが出来ない。
また、事例検討に参加する人にも、事例文を読み取るその人の 能力というものがある程度必要とされる。

試しに、ケアマネさんに「事例検討をお願いします」と頼んでみると、9割以上は「はい、やりましょう。」とは答えないでしょう。
「嫌です」とか、「出来ません」と言う人は半分くらい居られるとして、結構多い答えは「すんません、時間がないので事例作成の承諾は出来かねます」とやんわり逃げ出す断り方をされるだろうと想像します。
つまり、やった方が良いとか、やるべきだと少しは感じても、実際にはそれをやれるだけの自信がない、と言う意思を表明されるわけです。
・・・一旦やる、と言ってしまえば、それこそ最後まで完結するための時間と労力を事例完成のために捧げなくてはならなくなります。仕事等の業務に加えてその資料作りをやり遂げることは相当な決意と努力が必要となります。

もちろん、それをやり遂げれば、それなりに達成感はあるでしょうが、その味を占めて何度でも依頼があれば引き受けることが出来る人はまれでしょう。
事例作成をしてお金が入るわけではなく、いつもの仕事の他に、自分の勉強としてやり遂げることになるわけですから、結局はその人の使命感のようなものが左右することになりそうです。

ハーバード方式ではこうした「簡単に引き受けられない」というレベルがある。その要求されるレベルは慣れてない人にはかなり高いレベルとして設定されていると言えるでしょう。

ところが、今日研修を受けたインシデント方式では、こうした仰々しい事例検討ようのメニューはあえて作らない。肩に力を入れて作成せずに、「出来事の断片を表現する」ことに集中すればよい。これなら誰でもが書けるのではないか?

こうした手法については、(新しい手法ではあろうが)、今までの介護支援専門員研修ではお目見えしなかった方法なので大いに興味を持った。
各自に自分自分のインシデント挿話を書かせて、それをお互いに聞きながら情報の理解を進める体験をした。
感想としては、まるで井戸端会議のように、気軽に自分や対象者の言葉を記載したら良いので聞いている方も肩がこらずにすむという利点がある。
しかし、だからと言っていい加減に話が聞けるという訳ではないことが分かった。みんな初めての体験なので、語られる情報については洗練されたものではなかったと思われるが、同じ話は一つもなく、よく似たテーマであっても感じ方や捉え方がみんな異なっている。そこが非常に興味深い。

何がどのように表現され、どういう出来事があったのか?を神経を集中して聞いていく必要があった。・・・語られる情報を、もし誤解や曖昧に聞き取っていたら、おそらく的確な理解は難しいだろうと思う。
語る方と、語られる方が、提供される挿話を大事に扱うこと、言葉を丁寧に味わう関係が望ましいと思った。この場合の関係とは、語る人と聞く人との関係のことだ。・・・さらりと話すのも魅力はあるが、重みのない言葉は人の心には響かないだろう。
人に注意したり諭すときは、さらりと要点を指摘したり、聴き留めて要点を指摘することが必要であり、その際にあまり感情を挿入しない方が良いときもある。
しかし、インシデントでは、ある意味では厳選された表現がされることになり焦点化された場面なり言動が取り上げられることになる。
まるで、研ぎ澄まされた短編小説のように、事件を表現できれば難しい論文よりも参加者に事例のイメージを鮮明に提供することが可能となるのでは無かろうか?

小説家が作品を書くがごとくに、インシデント手法による事例発表も題材の選考というものがどういう判断と意図でなされるのか?が問われることとなる。
・・・これはある程度の経験と表現するための技術が必要となる作業です。
その意味では「簡単な伝達方法」という安易な認識ではなく、今までの方法の「仰々しい形式の鎧」を、簡潔な情報に厳選して伝え検討する方法であると言えよう。

こうした方式を、今後介護やケアマネジメントの場面で有効に応用していければ、事例検討の幅が広がるのではないか?
今日、実際にインシデント手法を学んでみて、そう感じました。
明日も引き続き主任研修です。残すところあと二日、ゴールはそこまできています。(^−^)

淀川沿いのフェンスに並んだ鳩さんたちです。