世界のニュースから・・・麻薬王の父の償い

今日の朝刊には、興味深いニュースが書かれていた。
南米はコロンビアの麻薬王と云えば、まず名前が挙がる人物・・・パブロ・エスコバルは、1993年取り締まり当局との銃撃戦で既に死亡しているが、彼が築いてきた麻薬組織設立の過程は、映画にもなっているギャングそのものの権力と暴力に満ちた生涯だったという。

メデジンカルテル」と呼ばれたエスコバルの組織は、政府も取り締まれない文字通り暗黒街の帝王として君臨していた。長い間暴力や暗殺・テロ等を交えた権勢をほしいままにしていが、米国CIAからも敵視され暗黒の帝王としての地位は最期は悲劇的な結末を招いた。
彼が麻薬によって得た資産は、一時は年間250億ドル、世界のコカイン市場の8割を扱っていたと云われている。
コロンビア西部の街メデジン、その中にあった彼の所有していた豪邸にはサッカー場や動物園があり、休日には多くの市民がまるで動物園に遊びに来るような様子で楽しんでいたという。一時は国会議員にもなり、貧しい人達の為の住宅5千軒を施したりの慈善事業も行った。
経済誌のフォーブスで世界の10指に入った時期もあったという。

そんなエスコバルは、対立する勢力や政治家など自分の行方を遮る人物に対しては容赦なくテロ・暴力を指示し、彼の命令によって殺された人達は何と3・4千人に上ると云う。・・・飛行機を撃墜を行ったり爆弾テロを行ったり手段を選ばなかった。大統領候補も殺害されているという。

こうした彼の残虐な行動・性格にもかかわらず、一方では家族に対する優しい親としての一面が垣間見られる。
彼が追われる身となり、隠れ家を転々と逃亡していたころ、彼の家族は国外に逃れて名前も隠し、別人として息をひそめて生き延びたという。

そんな彼の長男が、実はブエノスアイレスで自身が麻薬王の息子である事を公表し、犠牲となった人達に償いの行脚を始めているという。
息子は取材に応じてこう語っているという。
「遺族に許しを請い、対話によって暴力の連鎖を私たちの世代で止めたい」こう語っている。

息子さんの名前は、ファン・セバスチャン・マロキンさん(33歳)。
現在はブエノスアイレスで建築家として市民生活を続けている。
しかし、彼のライフワークは、「父の崩してきたものを、自分は建て直したかった」と話している。
2004年には、ドキュメンタリー映画「父の罪」製作に協力し、親が殺害した当時のボニーヤ法務大臣の息子に手紙を書き面会の機会を得る。・・・この面会の場面がそのまま映画の1シーンとなり、世界の観客に衝撃を与える事になる。

マロキンさんは、既に40人ほどの遺族と面会し、父の罪を謝罪し償いの行脚を続けている。
「過去は変えられないが、現在と未来は変えられる。・・・大学に行きたかった父は、貧しさの為に進学できず、麻薬の道に進んだ。貧しくとも、高等教育を受けられるようになれば、コロンビアにも平和が訪れる。」

彼の遺族を訪ねる日々はこれからもずっと続けられるだろう。
彼の生き方に影響を受ける人々は、きっと暴力の連鎖が無益である事を知り、共に平和に生きる必要性を知る事になるだろう。

このニュースを知り、感動を覚えた人は多いだろう。
すでに死んでしまったエスコバルも、自分の息子が償いの行脚を続けている事を天国から見てどう感じているだろうか?

映画「父の罪」をぜひ見てみたいと思います。
そして、横暴を極めた人物の息子が今は償いの日々を送る生き方を選んでいる事の意味を、もう一度考えていきたいと思う。